研究テーマ

・Feynman-Kac 型公式と場の量子論への応用


・擬リーマン多様体上の場の量子論のスペクトル解析, 特に赤外発散と紫外発散


・無限体積ギブス測度の存在とその応用


・非局所的(non-local)な作用素の確率解析的な研究


・非可換調和振動子とスペクトルゼータ関数及びRabi模型のスペクトル解析


・時間作用素とCCRの表現論, 及び時間作用素の実験的検証


・Lattice上のラプラシアンの摂動問題とスペクトル解析


研究概要

・無限次元空間上の作用素のスペクトル解析を研究している. 特に擬リーマン多様体上の場の量子論のスペクトル解析を数学的な立場から解析している. 場の量子論に現れるハミルトニアンは,数学的にはヒルベルト空間上の非有界な自己共役作用素とみなすことができる. その自己共役作用素のスペクトルを非摂動的かつ抽象的に解析している. この解析の困難さは簡単に言えば,無限自由度,埋蔵固有値の摂動問題,赤外・紫外発散などに由来する. 場の量子論のハミルトニアンには結合定数がゼロのときに,連続スペクトルに埋め込まれた固有値(埋蔵固有値)が存在する. 離散固有値と異なり埋蔵固有値の解析は容易ではなく, また離散固有値の振る舞いと本質的に異なることが最近わかってきた. 離散固有値の摂動理論にはKatoの正則理論が存在し,きわめて多くのことが確立されている. しかし埋蔵固有値の摂動については,我々の解析に対する一般論は存在しない. 具体的にはハミルトニアンの基底状態の存在・非存在および縮退度の評価,赤外発散・紫外発散の解析,スペクトル散乱理論,共鳴現象を汎関数積分や無限体積ギブス測度を使って解析している.


・非局所的な作用素の典型的な例は相対論的シュレディンガ−作用素やスピンのあるシュレディンガ−作用素である. 確率解析的にはアルファー安定過程や逆ガウス過程のような, 確率1でパスが連続でないレビィー確率過程の研究に対応する. Feynman-Kac 型公式を一般化し, 利用して束縛状態の減衰性などを研究している. また, 無限体積ギブス測度の理論とFeynman-Kac 型公式をあわせて非局所的な作用素の例の一つである, 準相対論的PF模型(SRPF)などにも応用している. 例えば SRPF模型の基底状態の空間的指数または多項式減衰性, 場の演算子に関するガウス型減衰性, SRPF模型の作る熱半群の改良正値性とハミルトニアンの自己共役性などを結合定数によらずに示すことが出来る. さらにスピンボゾン模型や相対論的な運動項をもったネルソン模型の基底状態や束縛状態の非摂動的な解析にも応用している.


・非可換調和振動子(non-commutative harmonic oscillator=NcHO)の固有値曲線の交点数やNcHOのスペクトル及びスペクトルゼータ関数を研究している. 最近, Itaru Sasakiと共同でオープンプロイブレムであったNcHOの最低固有値の単純性を示した. また, Cavity QEDなどで重要な役割を担うRabi模型の数学的な解析にも興味がある. Rabi模型は純粋数学的には自明に見える自己共役作用素であるが, 厳密に全て解け!と言われると解けない.


・ハミルトニアンに付随する時間作用素はCCRやWeyl関係式で定義される. 具体的に与えられたハミルトニアンに対してCCRを満たす作用素をさがしている. これは, 無限次元の線形方程式を求めることに対応するのだが, スペクトル解析などの深い理論が必要である. さらに最近, 時間作用素の実験的検証も行っている.