2023年度

    [第1回]
    講師  平良晃一 (立命館大)
    日時 7月19日
    講演題目 Threshold resonances for discrete Schroedinger operators

    アブストラクト:本講演では離散シュレディンガー作用素の閾値共鳴状態について得られた結果を述べる.ここで,閾値とは古典粒子の速度が零になるようなエネルギーのことを表している.これに対応する量子系を考えると,速度が零であるのにも関わらず不確定性原理の影響で無限遠点に逃げていく状態が存在することがあり,これを(閾値)共鳴状態と呼ぶ.連続空間のシュレディンガー作用素の共鳴状態についてはJensen-Katoの仕事により概ねその性質がわかっており,時間発展作用素との関連まで含めて研究されていた.一方,離散シュレディンガー作用素については閾値の性質が連続空間の場合とは異なり調べるのが困難になる.ここでは,閾値共鳴状態が存在,非存在や存在した場合の共鳴状態の性質について得られた結果を述べる.本研究は野村祐司教授との共同研究である.

    [第2回]
    講師  石田敦英 (東京理大)
    日時 10月12日
    講演題目 時間減衰する調和振動子の下での逆散乱について

    アブストラクト 通常の調和振動子とは異なり,時間減衰する係数をもつ調和振動子は粒子を加速させ散乱現象を引き起こす.本講演では短距離型相互作用ポテンシャルによって摂動させた時間減衰調和振動子の量子力学系において,Enss-Wederの高速度極限の手法を用い,散乱作用素からポテンシャル関数の一意性を導く逆散乱についての結果を報告する.特にポテンシャル関数にはクーロンポテンシャルを含むような特異性を許容できることを紹介したい.

    [第3回]
    講師  渡部拓也 (立命館大)
    日時 10月26日
    講演題目 複数の接触交差が生成する小さな擬交差間の2準位断熱遷移確率

    アブストラクト 1回の線形交差によって生成される擬交差間の遷移確率を記述するLandau-Zenerの公式について,本研究では断熱近似(準古典解析)の枠組みで,この公式の一般化を考察する.断熱パラメータに加え,擬交差間のエネルギーギャップも小さなパラメータとして考察するとき,変わり点の合流に起因する問題により,典型的な準古典解析の理論が適用できない場合が存在する.特に,接触交差により生成される擬交差モデルに対して,上記の場合の遷移確率の断熱極限の問題は未解決であった.本講演では,複数回の接触交差によって生成される擬交差モデルに対して,Landau-Zenerの公式の一般化として得られた結果を紹介する.本研究は,樋口健太氏(愛媛大学)との共同研究である.

    [第4回]
    講師  鈴木章斗 (信州大)
    日時 1月25日
    講演題目 量子ウォークのヨスト解

    アブストラクト 1次元量子ウォークに対するヨスト解を構成し、スペクトル散乱理論を展開する.

    2022年度

    [第1回]
    講師 後藤 ゆきみ (九大)
    日時 7月1日 (確率論セミナーと合同開催)
    講演題目 Spontaneous mass generation and chiral symmetry breaking 

    アブストラクト 量子色力学において, 相互作用が無ければクォークは質量を持たず, 保存量カイラリティーを持つ. 現実にはクォークは質量を持ち, カイラル対称性も破れている. これは相互作用によって真空の対称性が自発的に破れた結果であると考えられている. 本講演では, Kogut-Susskind 型の格子フェルミオンのハミルトニアンを考える. 相互作用は4つのクォークの有効相互作用とし, その強結合領域を扱う. 空間次元が3以上のとき, この模型において無限体積極限をとることにより, 質量項の期待値が非自明な値をとることを証明する. これは連続極限がうまく取れれば, カイラル対称性が自発的に破れることを意味する.


    [第2回]
    講師 只野 之英 (東京理大)
    日時 10月6日
    講演題目 離散シュレディンガー作用素の連続極限について

    アブストラクト 離散シュレディンガー作用素は結晶固体中の電子の挙動を強束縛近似することによって得られるハミルトニアンとして知られる一方で,連続空間上のシュレディンガー作用素の離散近似としての側面もある.格子幅を狭める連続極限で離散シュレディンガー作用素は通常のシュレディンガー作用素に形式的には収束するが,実際に「収束する」ことを厳密に研究したものは非常に少ない.本講演では,正方格子の場合にこの連続極限を作用素論の観点から定式化した上で,その意味で連続極限が成立し,その系として離散シュレディンガー作用素のスペクトルがシュレディンガー作用素のスペクトルの良い近似になっていることを示した結果(中村周氏(学習院大学)との共同研究)を紹介する.時間が許せば,量子グラフの連続極限を扱った最近の結果(中村周氏(学習院大学),Pavel Exner氏(Czech Technical University)との共同研究)も併せて紹介したい.


    [第3回]
    講師 原 隆 (九大)
    日時 10月13日 (九大数理IMI談話会と合同開催)
    講演題目 [第1話](解説) Ising および phi^4 場の理論の4次元時空における triviality について [第1話 録画]

    アブストラクト 「4次元時空で『相互作用のある=自由場ではない』場の量子論が構成できるか?」というのは 数理物理学の大きなテーマの一つですが,非常な難問です.特に「『スカラー場の理論』を用いる限り, これは不可能であろう」というのが1970年ごろからの大方の予想になっていました(trivialityの予想). しかしこの予想の厳密な証明は非常に難しく,数十年の未解決問題でした. 2019年,Aizenman と Duminil-Copin によって,この問題がほぼ満足のいく形で解決されました — 5次元以上の時空では Aizenman と Froehlich によって 1981年にほぼ解決ずみ. また Duminil-Copin はこの仕事を含む一連の仕事によって,2022年の Fields 賞を受賞しました. (色々と限定条件はついています.主なものは「格子正則化の極限としての場の理論を考える」 「Ising または phi^4 型のスピン系から出発する」「スピン同士の相互作用は強磁性型, 最近接,並進対称」「スピン系としての高温相または臨界点直上での連続極限のみを考える」 などです.これらの条件の下では,連続極限で構成した場の理論は一般化された自由場になる, というのが結論です.) 本講演では,この重要な結果の解説を行います. 第1回目では「何が問題か」「結果の正確な記述」「使う道具の概要」などを説明し,続く2回で(参加者の興味に応じて)技術的な詳細をお話しする予定です.

    (お断り)原自身は,この問題の解決には全く寄与していません.この講演はあくまで2019年の仕事(およびそれに先行する結果)の解説を行うものです.また,2019年の解析は非常に大変なので,その概要しか触れられないと思われます.

    (主要文献)
    ・Aizenman and Duminil-Copin: Marginal triviality of the scaling limits of critical 4D Ising and phi^4 models, Ann. Math. 194 (2021), 163-235
    ・ Aizenman: Geometric analysis of phi4 fields and Ising models. I, II, Commun. Math. Phys., 86 (1982), 1-48
    ・ Froehlich: On the triviality of lambd phi^4 theories and the approach to the critical point in d(−) > 4 dimensions, Nucl. Phys. B200 (1982), 281-296

    (参考文献)
    ・田崎, 原:相転移と臨界現象の数理, 共立出版,2015
    ・新井,河東,原,廣島:量子場の数理 : 数理物理の最前線, 数学書房, 2016
    ・Fernandez, Froehlich, Sokal: Random Walks, Critical Phenomena, and Triviality in Quantum Field Theory, Springer 1993  

    [第4回]

    講師 原 隆 (九大)
    日時 10月20日
    講演題目 [第2話](解説) Ising および phi^4 場の理論の4次元時空における triviality について[第2話 録画]


    [第5回]

    講師 原 隆 (九大)
    日時 11月10日
    講演題目 [第3話](解説) Ising および phi^4 場の理論の4次元時空における triviality について[第3話 録画]


    [第6回]

    講師 森田 英章 (MIT)
    日時 11月24日(第6回と第7回は同日開催)
    講演題目 グラフゼータ函数と三種の表示

    アブストラクト グラフゼータ函数の表示式に関する概説を行います. グラフゼータ函数は有限グラフに対して定義される形式的冪級数で, その研究は伊原康隆氏の1966 年の論文に, その源流を求めることができます. 当初は数論的な動機のもとに導入されましたが, その後 J. -P. Serre, 砂田利一, 小谷元子, 橋本喜一郎各氏により, 有限グラフに対する概念として定式化されるに至りました. その後も, H. Stark, A. Terras, D. Foata, D. Zeilberger, L. Bartholdi の海外勢や, また我国では佐藤巖氏により精力的な研究が行われています. そこでは, 様々な具体的設定のもとに定義されたグラフゼータ函数が考察の対象となってきました. そして, それらの研究で扱われているグラフゼータ函数には, 「指数表示」, 「オイラー表示」, 「橋本表示」と現在よんでいる3種類の表示式が, 常になんらかの形で現れることが観察されます. この講演では, グラフゼータ函数の一般的な定義を与え, そこではこれらの3種類の表示が同値な表示式になっていることを解説し, さらにグラフゼータ研究において一貫して中心問題でありつづけている「伊原表示」とよばれる4種類目の表示との関係について述べたいと思います.


    [第7回]

    講師 石川 彩香 (横国大)
    日時 11月24日
    講演題目 グラフゼータ函数と伊原表示

    アブストラクト グラフゼータ函数とはグラフに対して定義される形式的冪級数である. 伊原表示はグラフに関する行列で構成される行列式表示であり,その存在を問うことはグラフゼータにおいて中心的な話題の一つである. 先行研究では,具体的な条件を付加したグラフやグラフゼータに対する伊原表示の存在についての議論が各々行われてきた. しかし近年,森田氏(室蘭工大)によりグラフゼータの一般的な定義が与えられ,その観点に基づいた一般的な議論が可能となった. 本講演では,グラフゼータの概要から,伊原表示の一般論に向けた議論の現状について紹介する. 本研究は室蘭工業大学の森田英章氏との共同研究である.


    [第8回]
    講師 Serge Richard (名大)
    日時 12月1日
    講演題目 Scattering theory and an index theorem on the radial part of SL(2,R)

    アブストラクト In this talk, we present the spectral and scattering theory of the Casimir operator acting on the radial part of SL(2,R). After a suitable decomposition, the initial problem consists in studying a family of differential operators acting on the half-line. For these operators, explicit expressions can be found for the resolvent, the spectral density, and the Moeller wave operators, in terms of hypergeometric functions. Finally, an index theorem is introduced and discussed. This presentation is based on a joint work with H. Inoue.


    [第9回] ポスター
    講師  高村 博之 (東北大)
    日時 12月2日(偏微分方程式論セミナーと合同開催, 卓越プログラム連携イベント)
    講演題目 The combined effect in one space dimension beyond the general theory for nonlinear wave equations


    [第10回] ポスター
    日時 1月26日
    研究会 [Rabi model and Spin-Boson model]


    [第11回]

    講師 原 隆 (九大)
    日時 2月2日 17時開始
    講演題目 [第4話](解説) Ising および phi^4 場の理論の4次元時空における triviality について[第4話 録画]
    ※「相転移と臨界現象の数理」  の 付録A (訂正・修正) にランダムカレントの目の覚めるような解説があります.


    [第12回]
    講師  佐々木 格 (信州大)
    日時 2月9日
    講演題目 Bogoliubov変換による対相互作用模型の対角化

    アブストラクト 量子場の相互作用系で厳密に解ける模型は少ない. その中で,解ける模型とされてきた模型の一つに対相互作用模型がある(対模型,ペアモデルとも呼ぶ方が一般的かもしれない). これは場の2次の相互作用を持つ量子場であり,ヘンリー・ティリングの教科書では「解ける相互作用の例」として紹介されている. そこでは,古典場に対する散乱理論とBogoliubov変換を経由してハミルトニアンが対角化される. 新井氏はこの手続きを数学的に正当化し,双極近似のPauli-Fierz模型などの解析に応用した. 本講演では,散乱理論を経由せずに,直接的にBogoliubov変換を経由し対角化を行う方法を紹介する. 対角化後のハミルトニアンは具体的な1粒子ハミルトニアンの第2量子化と基底状態エネルギーとの和に表される.
    (参考文献) Y. Matsuzawa, I. Sasaki and K. Usami: Explicit diagonalization of pair interaction models, Analysis and Mathematical Physics(2021)