初めに
基本的なことはセミナー紹介の冊子に書いていますので, 初めにこちらをご覧ください. 以下でこれを補足する形で説明を書いておきます. (書きたいことを思いつき次第加筆する予定です)
セミナーの進め方
セミナーは毎週一回90分間行います. これまでに自主セミナーを行っている学生もいると思いますが, 多くの学生にはこれが初めてのセミナーの機会だと思います. 最初の数回は慣れないかもしれませんが, 直に慣れてくると思います. 3年後期のセミナーでは受講者全員同じ本を読むことになりますので, 何処が担当になったとしても的確に発表ができるよう準備をしてください.
セミナーへの準備
セミナーは自分が理解したことを人に説明する場なので, そのためにはしっかりとした準備が必要です. セミナーに臨む心構えとして以下のリンク先を一度ご覧ください.
また次の本も数学書の読み方について参考になります.
テキストの内容
テキストは候補として以下の2冊を挙げました. 参考文献の幾つかは著者がHP上で公開しているので, リンクを貼っておきました. その他のものについては出版社のページへのリンクを貼っています.
私のセミナーでは基本的に測度論に基づいた確率論についてセミナーを行います. 下記の説明と幾らか重複しますが3年後期セミナーの案内で用いたスライドを
こちらに置いておきます. 測度論に基づく確率論では, 初めに確率空間や確率変数といった基本的な用語を定義してから, 分布や独立性といった確率論特有の概念を導入します. これらについては統計などの講義で既に学んでいるかもしれませんが, ここでは数学的に正確な定式化を行うので非常に抽象的な定義になります.
確率論における最初の問題として次を考えてみます.
「$p+q=1, 0\le p,q \le 1$ として, 表が出る確率が $p$, 裏が出る確率が $q$ のコインを各回独立に投げる試行を考える. 各回表がでたら $1$ 円もらえ, 裏ならば $1$ 円支払うこととする. $0$ 円から初めて $n$ 回目のコイン投げ終了後に持っている金額を $S_n$ とする.$n\to\infty$ とすると $S_n$ はどのように振る舞うか?」
独立に同じ試行を繰り返すということは, 確率論の言葉で同分布な独立確率変数列として定式化され, $n$ 回目の後の所持金 $S_n$ は確率変数列の和として表されます. 確率論における最初の大きな目的は, 大数の法則や中心極限定理(これらについては上のノートを参照)といった $n\to\infty$ における極限を調べることにあります. 大数の法則や中心極限定理を数学的な定理として示すことが最初のゴールです.
上のコイン投げの例において $n$ を時間, $S_n$ を時刻 $n$ における粒子の位置と思うと, 上の確率過程 $S_n$ は整数格子 $\mathbb Z$ 上を動く粒子の模型と考えられます. これはランダムウォークとよばれます. ランダムウォークは先の独立確率変数列の具体的な場合ですが, これを深く解析することに自然につながります. またランダムウォークの一般化として, マルコフ連鎖とよばれる確率過程であったり, ランダムウォークの連続版に対応するブラウン運動の性質についても引き続き考えます. これらを解析する上ではマルチンゲールとよばれる確率過程が非常に重要な役割を果たします. マルチンゲールに関する理論もセミナーで扱います. 以上が大体3-4年生セミナーで扱う内容になります.
ここまでざっと書きましたが, どちらのテキストでもこのような内容をセミナーで扱います. また受講者とも相談にはなりますが, 大学院への進学を前提にするのであれば英語のテキストを扱う予定でいます. 英語のテキストにはアレルギーがあるかもしれませんが, 数学で使われる英語はあまり難しくありません. 個人的な意見ですが, 多くの先生が同じ意見なのではないかと思います. 英語で読み書きすることは最初は慣れないかもしれませんが, テキストを繰り返し写経すれば半年も経たずに数学的な表現に慣れると思います.
その後(4年, 修士課程)のセミナー
上で挙げた舟木先生の本だと早い人であれば半年から1年くらいで読み終えると思います. その後は引き続き確率論の基本的事項についてのテキストをセミナーで扱う予定でいます. 例えば次が候補になります.
これらの本では現代の確率論ではなくてはならない確率微分方程式や付随する理論を扱っています. 確率微分方程式の理論の概要については例えば
こちらをご覧ください.
これらの本で確率論の基礎理論を更に学ぶことは非常に自然ですが, その他もっと踏み込んだトピックを扱うことも一考です. その際は例えば次が候補になります.
- Scaling Limits of Interacting Particle Systems, C. Kipnis, C. Landim著, Springer, 書評
- Markov Chains and Mixing Times, D.A. Levin, Y. Peres著, AMS, 書評
- A Course on Large Deviations With an Introduction to Gibbs Measures,
F. Rassoul-agha, T. Seppäläinen著, AMS, 書評
これらの本の内容についてはそれぞれの書評をご覧ください. これらの本は私の興味に近い内容を扱っていますが, 勿論その他のテキストを扱うことも可能です. 追って相談して決めたいと思います.